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見習い魔術師

見習い魔術師

    第九章


「あ―――ッ」
森の中から突如現れた二人組に、リースは大声を上げて、その薄い陽炎のような羽をばたつかせた。
「なぁんであんたがいるのぉ、ラスライッ!?」
指差したのは二人組の片方の、リースよりやや濃い、緑の髪をした男。
男はその言葉に少し顔をしかめると、ふわふわと寄って来たリースを軽く指ではじいた。
対称比、とでも言うか、人間と妖精では間違えようもないほどサイズが違う。
なので、軽く弾かれただけでも、リースは「きゃっ」と声を上げて空中を滑った。
「なにするのよっ」
明らかに怒った様子の彼女に対し、男はふんっ、と鼻で笑う。
「何するも何も、それが親に対する態度か、チビすけ」
「な―――ッ!!!」
リースは声にならない悲鳴を上げると、猛スピードで男の目の前に行き、ビシッと指を突きつけた。
「チビって言うなぁ!!大体、だぁれが親だってぇ!?アンタがお腹痛めて産んだとでもいうのっ」
「もちろん違うに決まってんだろ」
男はしれっと言うと、言葉を続ける。
「俺、お腹を痛めてまでお前を産むほど、厄介なことする気ないしー」
「語尾伸ばすなぁ!っていうか、根本的にちがぁう!!あんた男でしょぉ!?」
「それがどうした。魔法使えばちょちょいのちょーいと・・・」
「いくかぁ!!何その〈ちょちょいのちょーい〉って!!」

えんやわんやの騒がしい中、二人組のもう片方は、きょろきょろと辺りを見まわすと、お目当てを見つけたのか大きく手を振った。
「おおい、ヨシュア~!!」
「あ、ハーメルさんいらっしゃ~い」
その何気ないやり取りに、リースはラスライとのやりあいもどこへやら、ばっと振り返った。
「えええっ!!?」
「な、なんだよ・・・?」
大声と共にじろじろと全身を見られ、一瞬、男―――ハ-メルはたじろぐ。
リースは心行くまで・・・といっていいのかどうか、とにかく気の済むまでハーメルを眺めた後、あからさまにわざとらしい溜息をついた。
「ヨシュア~、こぉんな奴がハーメルなわけないじゃなぁい」
「んだとコラ」
ハーメルの言葉を完璧に無視し、リースはやれやれと首を振った。
「何をどう間違えてもこいつがフィリルのあの怯えの原因にはみえないもの。こーんな細っこくてなよなよしてて、女みたいになまっちろい奴がさ~」
「リース、それはさすがに言い過ぎだと・・・」
ヨシュアの控えめな発言も空しく、どこからともなく何かが切れる音がした。
見ると、ハーメルが片方の拳を握り、わなわなと震えている。
ヨシュアは溜息をついた。
・・・あーあ。

幸か不幸か、ヨシュアの予想は微塵も違わず当たることになる。




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